井田坂の住宅 | HOUSE IN IDAZAKA

擁壁による分断をどうつなぐか

敷地は北向きの斜面地に造成された住宅地。高さ4mの擁壁に挟まれた道路の突き当たりにある敷地からは今も山肌が見える。建主は谷から吹く風と眺望を気に入り、この土地に住まいをつくることにした。宅地開発と自然の地形の狭間に位置し、敷地中央に擁壁がまたがっているため、土地は小さく分割されている。おまけに搬入路である坂道が急で大きな材料は搬入できず、短くて軽い部材で建物をつくる必要があった。このように擁壁によって小さく分断された土地に小さな部材で、眺望や風などこの地形が持つダイナミズムを感じられる空間をつくりたい。

矩計図まず目につくのが高い擁壁である。敷地を囲む擁壁があるため、さらに囲い込むような外壁は極力いらないと考えた。さらに北向きの斜面地であるため、なるべく光と風が通るように擁壁をまたぎ南北をひとつなぎにするスラブをかけることにした。スラブは光を反射させるレフ板のような働きをして光を引き込む。不定形の敷地の中央になるべく大きく取れるように床と屋根の矩形を配置する。そしてそれを支える耐力壁は土地形状に沿わせて配置するため、スラブの梁と耐力壁の位置に矛盾が生じる。そこでスラブのどの部分を支えても成立し、大きな無柱空間を実現できる「持ち合い構造」(構造についてのテキスト参照)を採用した。そして耐力壁は空間を間仕切る壁ではなく、大きなキャビネットや本棚などの家族共有の家具として設えることで家族の拠り所をスラブ下に点在させた。

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外向きの団らんをつくる
構造であるそれぞれの家具は地形に沿わせているため、家族の拠り所は地形につながる。例えば、1階の大きな本棚とデスクは下段の擁壁沿いの塀と連続しているため、通りの突き当たりの子ども達の遊び場に連続する。2階のダイニングは南側の土間を通じて隣人と共有する庭につながり、大きなベンチからは隣家の猫と窓越しのコミュケーションがあったり。敷地内に点在するそれぞれ外向きの拠り所に佇み、大きなスラブによってそれぞれが統合されることで、家族がなんとなく同じ空間を共有している、言わば外向きの団らんのような状態になる。

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木はいつの時代も神聖なものでありながら、人間にとって便利な道具でもあった。軽さや粘り強さなど木が持つ柔軟さゆえに、構造部材、床などの仕上材、家具、取手など、さまざまな場面で木が利用されてきた。つまり木は建築を構成するそれぞれの位相をシームレスに横断させることができる。この住宅は構造体を家具や光を受ける面と見立てることで、「構造>仕上げ>モノ」という包含関係を取り外す試みだ。それによって、床や家具やモノが外部環境と直接関係付き、街と連続したこれからの家族の団らんの形をつくることができるのではないだろうか。

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構造について
特異な敷地における搬入・運搬等の条件から、材長の制限された部材(材長3m以下)でいかにして2階の一室空間を成立させるかが主題である。ここでは、金物工法を採用し、梁を風車状に組み合わせ(いわゆる卍組の梁組)とすることで、それぞれがピン接合で成立する「持ち合い構造(形式)」によって、材長1820mmの梁による7.88m x 7.46mの無柱フラットルーフが成立している。屋根荷重は、梁を通じて四方に伝達され、支持点(辺)である外周の柱へと流れるため、内部に柱は不要となる。内部の柱は、耐力壁によってのみ決定し、架構からは解放される為、将来的な変更に対しても可変性を備える架構となっている。(大川)